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2026-08-19 13:40:00

ゲーム会社に残された時間は少ない

今日は私の古巣であるゲームの話をしましょう。4~6月期のゲーム各社の決算では、リピート販売の好調さが目立ちました。カプコンの「バイオハザード」、スクウェア・エニックスの「FINAL FANTASY」、セガサミーの「ペルソナ」など、過去作品が再び売れています。これは旧作人気がある、というだけではなく、ゲーム会社が「新作を売る会社」から「IP(コンテンツ)を使って何度も稼ぐ会社」へ、いわばIPの資源化に成功しつつあるからです。

 

ところで、IPを資源化するために必要なのは、次のような施策です。

 

1.まずは名作をつくる

2.旧作をデジタルで何度も売れる状態にする

3.派生商品やイベントにより世界観・キャラクターを長期間維持する

4.ファンダム(信者層コミュニティー)に物語を提供する

 

これからは、その先のAIによる、ゲームそのもののパーソナル化があるかもしれませんね。例えばRPGなら、プレイヤーの性格や過去の行動によってNPCの会話、仲間との関係、敵の強さ、街の歴史、事件、恋愛、結末までリアルタイムで変わる。極端にいえば、100万人が遊べば100万通りの「自分専用FF」や「自分専用バイオ」が生まれる世界です。

 

ただし、これは無料ではありません。数千万人のユーザーに高度な生成AIを常時動かせば、推論計算量は膨大になり、ゲームは一気に「AIリッチ」な産業になります。それでも、大手ゲーム会社はいずれ外部AIを借りるだけでは足りなくなり、自社IP専用のAI基盤を持つ方向へ進むと思います。

 

幸い、任天堂、ソニー、カプコン、コナミ級なら、今の収益力と時価総額を考えれば数百億~1,000億円単位の投資も不可能ではありません。1,000億円あれば、最新GPUを5,000~1万基、70~140ラック程度備え、10兆~30兆トークンを学習するゲーム専用AI基盤も視野に入ります。ChatGPTと正面から競う必要はなくて、ゲームという限定領域で世界最高のAIを作ればいいのです。

 

こうした独自AIなら、自社IPの全設定、台詞、世界観、過去作品を学習・管理し、権利問題やブランド毀損も抑えられます。そして何より、「外部AIにゲームを作らせた」のではなく「その会社自身が作ったAI」であれば、クリエイターにもユーザーにも受け入れられやすいはず。AI利用の大義名分が初めて立ちます。

 

また、長期的には人間の労働時間が減り、AIによって余暇がさらに増える可能性があります。私もコロナの時に急にダウンロード販売が4倍になって驚いた経験がありますが、人間ヒマになれば余暇の時間をゲーム、動画、SNS、旅行が奪い合うものです。

 

一方で、5年ほど先には、個人自身がAIで自分に合った娯楽――小説や漫画、映画、ゲームを作る時代も来るでしょう。

 

しかし、それでもIPは残ると思います。人間は「個」では暮らせない動物だからです。完全に一人ひとり違う物語になれば、みんなで語る共通体験がなくなり、ファンダムも形成されにくい。「自分だけの世界」は欲しいが、「みんなが知っている世界」の中で遊びたい。そこに既存IPの強さがあります。

 

とおいうわけで、ゲーム会社に残された時間は意外に短いのです。

 

今後2~5年で、IPを資産化し、自社AIを持ち、「同じゲームを全員に売る会社」から「IPを使って一人ひとりに違う世界を提供する会社」へ進めるか。そこが次の勝敗を分けると思います。

2026-07-11 13:12:00

AIは文明総合の仕事量を増やす

■AIはプロを不要にするのではなく、プロを必要とする人を増やす、というお話です。先日、若い人と話していて、「今はAIがコードを書いてくれるけど、結局責任とる人が必要だよね。そこのところどうなの?」などと、意味不明な質問をしてしまいました(笑) その場ではうまく言語化できなかったのですが、少し考えて、言いたかったことが分かったので、書いてみます。

 

AI時代とは、やりたいことが「自分にもできそうだ」と思える時代です。アプリを作りたい、映像を作りたい、会社を始めたい。以前なら専門知識がないだけで諦めていた人も、AIに相談すれば、とりあえず最初の形までは作れます。「挑戦する人の母数が増える」ということで、これまでなら、アイデアがあってもプロに相談する前に諦めていた人が、自分で試作品を作り、「これなら本当にできるかもしれない」と検証くらいはできる。つまりAIは、これまで「存在しなかった依頼人を市場に連れてくる」のです。

 

そして、アイデアはその依頼人が趣味を越えた瞬間、プロが必要になります。アプリらしいものを作ることと、商売として運営することはまったく違うからです。個人情報は安全か、決済に失敗したらどうするか、不正アクセスを防げるか。障害が起きれば、原因を調べ、復旧し、利用者に説明しなければなりません。AIはコードを書いてくれますが、責任者にはなってくれませんからね。

 

米国の雇用予測によると、指示に従ってコードを書くいわゆる「コンピュータープログラマー」は2034年までに6%減る一方、設計、テスト、保守まで担うソフトウェア開発者や品質保証担当者は15%増えるとされています。仕事が消えるというより、単純作業から、完成と運営を担う仕事へ移るのです。

 

旅行も同じです。AIなら数秒で旅程を作れます。しかし、飛行機が欠航したとか、ホテルに予約が入ってなかった、となれば、欲しいのは追加情報ではなく、代替便を探し、最後まで面倒を見てくれる人です。医療でも、米国では2026年に医師の81%が仕事でAIを利用していますが、治療方針を決め、責任を負うのは今も医師です。AIは新たな治療法や論文をくまなく調べてくれますが、それは結局、専門家の道具になっただけであって、代わりにはなっていません。

 

もちろん、単純な作業だけを売ってきた人には厳しい時代でしょう。それでも、入口が広がれば、出口で待つプロの出番が増えるのは自明です。勢い、責任者の「人手」は足らなくなるでしょう。そして、もっと言えば、AI時代は人手を減らすのではなく、アイデアの実現可能性を高め、その結果、文明総合の仕事量を増やすのではないかと、思います。

2026-07-08 21:52:00

生きのこる書店

帝国データバンクが7月6日に公表した調査によると、2025年度に赤字となった書店は全体の38.7%、業績悪化は69.7%に達したそうです。全国の書店数も9993店と初めて1万店を割りました。これはさもありなん、と思いきや、同じ帝国データバンクの調査で、24年度に増益となった書店が約4割と、過去10年で2番目の高水準でもあったそうです。沈む業界の中で、なぜ4割は増益なのか。今回は思考実験的に、上場書店の決算でこの謎を検証してみました。

まずは中部地盤の三洋堂ホールディングス(3058)です。26年3月期第3四半期は売上高が前年同期比で2.2%増にとどまる一方、営業利益は1億600万円と同220.3%増(!)、直近3カ月の売上営業利益率は1.3%から3.7%へ改善しました。この中身を見ると、前期実績ですが、本業の書店部門は6.9%減収なのに対し、トレカ部門は10.7%増、新規事業は26.7%増。さらにデュエルスペース付きの「トレカ館」を25店舗、中古ホビーの駿河屋併設店を5店舗まで広げ、顔認証で入店する無人営業店も14店舗に達しています。つまり、増益の中身は本ではなく、本の棚を削って入れた別商材と省人化ということです。また、新潟地盤で蔦屋書店を展開するトップカルチャー(7640)も、26年10月期中間で営業黒字に転換しましたが、牽引したのはやはり本ではなく、タリーズとトレカ事業でした。

一方、本そのもので利益を向上させる実験も進んでいます。紀伊國屋書店、CCC、日販が設立したブックセラーズ&カンパニーは、取次を介さず出版社と直接取引し、返品リスクを書店が引き受ける代わりに粗利率を従来の22%程度から29%台へ改善。参加書店の店頭売上は全国平均を5.7~11.6%上回る月もあり、同じ本を売っても、取引の設計次第で利益が変わることを示しました。この5月には参加15社が「売上10%成長・返品率20%・粗利30%」の共同声明まで出したそうです。

こうして並べると、どうやら増益4割の正体が見えてきますね。

本を集客装置と割り切って高粗利商材で稼ぐ店と、流通の仕組み自体を作り替えて本の粗利を上げる店。赤字38.7%は、そのどちらにも踏み出せていない中間層、というのが決算数字から導ける仮説です。(まあ増益書店全体の内訳統計は存在しないので、これはあくまで推論でしかありませんが……)。

で、私が面白いと思うのは、この二極化が書店を「実験場」に変えつつあることです。無人営業、買い切り型流通、対戦スペースという体験課金。このままではジリ貧という切迫感が、全国1万店弱のリアル拠点で、小売の新しい収益モデルのA/Bテストを同時多発的に走らせているのだと思います。書店の未来は、中間流通費の除外、さらには出版物をエンタメ化して、その上で高付加価値商品を販売する実験にかかっているのかもしれません。てことで、次に本屋へ寄ったら、棚の減った分に何が入ったかを見てみてください。

2026-03-16 17:04:00

ソフトウェア産業のゆくえ

■好況と言われるソフトウェア業界で倒産が増えているよう。帝国データバンクによれば、ソフト受託開発とパッケージソフトを含むソフトウェア業の倒産件数は2025年度2月までに195件に達し、過去10年で最多だった2024年度と同水準となりました。激変の時代なので、微妙に古いこのデータは「今」を反映していないかもですが、ただ、倒産した会社の約84%が負債1億円未満の小規模企業というのは、ちょっと気になりました。

日本のIT企業数は約4万社。これは人口や市場規模を考えるとかなり多い部類に入ります。たとえば米国は日本の数倍ですが、大企業への集中度はむしろ高い。一方、日本では大手SIer(企業のITシステムを「設計・開発・導入・運用」までまとめて請け負う会社)の下に一次請け、二次請け、三次請けと続く多重下請け構造があって、受託開発を担う中小企業が大量に存在しています。この部分が今回の倒産増のクラスタなのです。

原因は主に3つ

1. 人手不足
帝国データバンクの調査では、情報サービス業で正社員の人手不足を感じる企業は約69%に達しています。IT産業は人材がそのまま生産力になるので、エンジニアがいなければ案件があっても受注できず、売上が伸びません。しかも厚生労働省の統計では、情報サービス業の平均給与は月38万円を超え、全産業平均より大きく高い水準です。賃上げ圧力は特に体力のない中小企業を直撃します。

2.下請け・孫請け企業に回る仕事の構造変化
クラウドやSaaSやAIの普及によって、従来のようにシステムを一から開発する案件が減り、少人数で構築できるケースが増えました。米AmazonのAWS、米MicrosoftのAzure、米Salesforceなどのサービスを組み合わせることで、開発工程の一部が置き換えられています。さらに生成AIの登場により、GitHub CopilotやCursorなどのツールを使えば開発効率は大きく上がります。その結果、従来のように多層の下請け企業を必要としない構造に変化しているのです。

3.料金体系
実は、日本のIT産業の最大の特徴は「SES」と呼ばれる人月ビジネスです。システムそのものを売るのではなく、エンジニアの労働時間を見積に反映するので、結果的に人月計算でお金を取っています。これは海外ではあまり見られない商習慣ですが、その遠因はおそらく公官庁の積算システム(昔は積算手帳なるものをお役人みんなが持ってましたね)にあると思います。AIによる生産性向上やクラウド化が進めば、このモデルでは売上が必然的に縮小していくので、その影響は多大だと思います。

ではどうすればよいのでしょうか。

方向性は比較的明確です。AIを積極的に取り入れて生産性を高めること、そして受託開発から自社サービスへと軸足を移すことです。特に有望な分野としては、高齢化社会を背景に需要が拡大するヘルスケアIT、女性向け健康サービスであるフェムテック、そして資産運用を支援する投資テックなどが挙げられるでしょう。自社のサービスであれば、KPIも明確で収益性も担保されます。なによりダメになればすぐ次のサービスへと移行することもできます。

下請け構造に甘んじて現在の売上に安閑とせず、今のうちにアイデアを蓄積して心のアンテナをピンと立て、自社サービスやアプリの開発に向かう。日本のIT業界は今、そういう大きな再編の入り口に立っている気がいたします。

2026-01-19 14:26:00

ドルが信認できない今年の投資をどうすべきか

最近UBSが公表した最新の富裕層向け調査レポートは、なかなか示唆に富んだ内容になっています。この調査では、世界の億万長者たちが「どの地域に投資機会があると考えているのか」を12カ月および5年という時間軸で尋ねています。

結果を見ると、これまで圧倒的な支持を集めてきた北米市場への投資熱がやや後退しています。今後12カ月で投資機会があると答えた割合は63%と依然高水準ではあるものの、前年の80%からは明確に低下しました。一方、評価を大きく伸ばしたのが西ヨーロッパと中国です。西ヨーロッパは18%から40%へ、中国も11%から34%へと急上昇し、資金が分散し始めている様子がうかがえます。中国を除くアジア太平洋地域も33%と存在感を高めていますね。

この理由は、ビリオネアたちが最も警戒しているのが関税問題で、回答者の66%が市場環境への最大のリスクとして挙げています。次いで地政学的紛争、政策の不透明性、高インフレと続きます。つまり「成長力」そのものよりも、「予測可能性」や「分散」への指向が強まっているわけです。

具体的には、ユーロ圏株に投資する「iShares MSCIユーロゾーンETF(EZU)」や、中国株に投資する「iShares MSCI China ETF(MCHI)」がこれにあたります。ただ、もしも貴方が個人で高齢なら、これらは米国上場ETFであり、日本居住者が保有したまま相続が発生すると、米国の遺産税が論点になる可能性があります。

そこで現実的な代替案として浮上するのが、日本の証券取引所に上場しているETFです。たとえばユーロ圏への投資であれば、ユーロ・ストックス50指数に連動するETFが東証に上場していますし、中国株についてもCSI300指数に連動するETFや、中国テック企業に絞ったテーマ型ETFが日本円で取引できます。指数は完全一致ではありませんが、相続や税務の扱いを含めた「持ちやすさ」は大きな利点です。

私も世界株=2559や米国短期債券=133Aといった固い資産をベースに、個別日本株と社債、さらにはプライベートエクイティーに成長エンジンを求める構成にしており、よりリスク対策を強化しつつあります。

というわけで、ビリオネアの投資動向は派手に見えがちですが、実際には「集中を避け、制度リスクも含めて設計する」という極めて現実的な判断のようです。私たち個人投資家にとっては、特にリスクへの対応は最重要課題ですから、どの商品を買うかだけでなく、「どの国の制度に乗るのか」を考えることが、これからますます重要になってきそうですね。

(またもや金は高騰し、アメリカは不安。単純にドルが信認を失いつつある、とも言えそうですが(笑))

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