ドルが信認できない今年の投資をどうすべきか
最近UBSが公表した最新の富裕層向け調査レポートは、なかなか示唆に富んだ内容になっています。この調査では、世界の億万長者たちが「どの地域に投資機会があると考えているのか」を12カ月および5年という時間軸で尋ねています。
結果を見ると、これまで圧倒的な支持を集めてきた北米市場への投資熱がやや後退しています。今後12カ月で投資機会があると答えた割合は63%と依然高水準ではあるものの、前年の80%からは明確に低下しました。一方、評価を大きく伸ばしたのが西ヨーロッパと中国です。西ヨーロッパは18%から40%へ、中国も11%から34%へと急上昇し、資金が分散し始めている様子がうかがえます。中国を除くアジア太平洋地域も33%と存在感を高めていますね。
この理由は、ビリオネアたちが最も警戒しているのが関税問題で、回答者の66%が市場環境への最大のリスクとして挙げています。次いで地政学的紛争、政策の不透明性、高インフレと続きます。つまり「成長力」そのものよりも、「予測可能性」や「分散」への指向が強まっているわけです。
具体的には、ユーロ圏株に投資する「iShares MSCIユーロゾーンETF(EZU)」や、中国株に投資する「iShares MSCI China ETF(MCHI)」がこれにあたります。ただ、もしも貴方が個人で高齢なら、これらは米国上場ETFであり、日本居住者が保有したまま相続が発生すると、米国の遺産税が論点になる可能性があります。
そこで現実的な代替案として浮上するのが、日本の証券取引所に上場しているETFです。たとえばユーロ圏への投資であれば、ユーロ・ストックス50指数に連動するETFが東証に上場していますし、中国株についてもCSI300指数に連動するETFや、中国テック企業に絞ったテーマ型ETFが日本円で取引できます。指数は完全一致ではありませんが、相続や税務の扱いを含めた「持ちやすさ」は大きな利点です。
私も世界株=2559や米国短期債券=133Aといった固い資産をベースに、個別日本株と社債、さらにはプライベートエクイティーに成長エンジンを求める構成にしており、よりリスク対策を強化しつつあります。
というわけで、ビリオネアの投資動向は派手に見えがちですが、実際には「集中を避け、制度リスクも含めて設計する」という極めて現実的な判断のようです。私たち個人投資家にとっては、特にリスクへの対応は最重要課題ですから、どの商品を買うかだけでなく、「どの国の制度に乗るのか」を考えることが、これからますます重要になってきそうですね。
(またもや金は高騰し、アメリカは不安。単純にドルが信認を失いつつある、とも言えそうですが(笑))
『一億円の壁』とは?
「一億円の壁」という言葉を最近ニュースでよく聞きます。これは「年収が一億円を超えるあたりから、なぜか税負担率が下がる」という現象のことを指します。いかにも金持ち優遇のように聞こえますが、ミスリードとの噂もあり、本当はどうなんでしょうか。
普通、サラリーマンの給料は「総合課税」といって、所得が上がるほど税率も上がる累進課税。最高税率は所得税45%+住民税10%で、合わせて約55%にもなります。ところが、株や投資信託の売却益、配当金、利子といった「金融所得」は「分離課税」で一律20.315%。つまり、収入の大半を金融所得で得ている人ほど、全体の税率(実効税率)が下がる仕組みです。
たとえば、年収5,000万円の会社員は税金でおよそ半分が消えますが、同じ5,000万円を株の売却益で得た投資家は税率20%ほど。こうして「一億円の壁」が見えてくるわけです。とはいえ、誰でも一億円を超えたら得する、という単純な話ではありません。給与収入が中心なら、むしろ負担は増え続けます。「ミスリードだ」と言われるのはこの点です。
最近はさらにややこしく、金融所得には金などの売買益、ビットコインなどデジタル資産の譲渡益も含まれます。これらは今のところ雑所得扱いで最大55%課税されので、「投資の種類次第で課税ルールがバラバラ」というのが現状です。
一方で、富裕層への増税には一定の正当性があると私は思います。国税庁の統計によれば、所得一億円超の人は全納税者のわずか0.1%ですが、納税額全体の約15%を占めています。社会の基盤を支える層として、もう一歩踏み込んだ貢献を求めるのは自然な流れでしょう。ただし、増税一辺倒ではなく、「目的別に税控除付き寄付を認める」など、社会貢献と税制を結びつける柔軟な仕組みが理想だと思います。
世界に目を向けると、アメリカでは「ミニマムタックス(最低税率制度)」を導入し、フランスでは富裕税(ISF)が導入されました。いずれも「超富裕層だけは最低でもこれだけ税を払うべき」という考え方です。日本もこうした流れに近づきつつあります。
注意が必要なのは、市場への影響でしょうか。税制が急に変われば、富裕層がETFや株式から現物資産、REIT、不動産などへ資金を逃がす可能性があります。結果的に資本市場が冷え込み、経済全体の活力を落とす可能性もあります。
結論: 富裕層には増税すべし。ただし税制構造のゆがみは是正されるべき。
トランプ関税は製造業の知財化戦略のチャンス?
どうやら日本はこのままだと25%の関税になりそうな気配ですね。これはもう、私などがあれこれ言うような問題ではないと思うのですが、この一連の騒動を見て私なりに思ったことを少し書いてみることにします。もちろんつっこみは歓迎です。
そもそも論として、巨大な市場を持つ独立国家が貿易赤字を嫌うのは、極めて自然な経済的防衛反応だと思うのですね。たとえば米国がトランプ政権のもとで強化している関税政策も、感情的な保護主義と見ることもできますが、国内産業と雇用を守るという観点では、ごく合理的な選択と捉えることもできます。たとえ日本のような同盟国であっても、自国の製造業を圧迫してまで外国製品を受け入れるべきではない、という考え方は一定の説得力を持っています。
という視点に立てば、今後の国際ビジネスにおいて「現地で作り、現地で売る」ことは不可欠の条件となります。特に資源を持ち、国内での付加価値創出を重視する国々においては、自国雇用を生む企業活動こそが歓迎されるからです。現地での製造拠点を整え、販売とサービスまで完結させることが、その国家との長期的な協調関係を築くことになります。
この点で先行しているのが中国企業とも言えます。
中国はメキシコをはじめとする新興国において、既に製造・組立・物流の一体運用を進めています。BYDなどは現地生産を基軸とし、雇用を創出することで政治的な抵抗感を減らし、製品の地場化を成功させています。また日本企業もようやくこの戦略に追随しつつあり、今後は「輸出」から「現地経済への埋め込み」への転換が進むことが期待されます。
ただし、そうした場合、当然ながら現地での納税が優先されるので、親会社が収益を吸い上げられないのではという懸念も生じます。そこで参考になるのが、AmazonやGoogleなど、米国の多国籍企業が採用している「知財ベースの収益モデル」です。製品は現地で作っても、設計・ブランド・技術・システムなどの知的財産権は本社に残し、使用料やライセンス料という形で安定収益を確保する手法です。これによって現地法人は適正な利益を残しつつ、本社には継続的なキャッシュフローが戻る構造を実現しているのです。
結局のところ、貿易問題の本質は「モノの移動」ではなく「雇用と税収」にあります。だからこそ、現地で製造し、現地に税を納め、そして本社は知的価値で報われるという三層構造を構築することが、日本企業にとって今後の生き残り戦略となるのではないでしょうか。
(じゃあ日本の工場はどうすべきか。おそらく、そこには別の産業を興すのが正解でしょうね。AIのOSを共通化した精密ロボットや宇宙産業のような……)
決算書があてにならない?
知り合いと話していたら、最近「粉飾決算」「不正会計」が多いという話を聞きました。特に成長期にある企業は、周囲の期待に応えなければならないというプレッシャーが強く、なにかと見栄えの良い発表をしがちなんだそうです。でも、会社をやっていれば良いときも悪いときもあるものですし、その都度、正直に状況を情報開示してくれないと、私たち投資家はとても困ってしまいます。
そんなわけで、少し調べてみました。
最近有名になった事案では、AI関連のサービスを手がける株式会社オルツですね。2024年12月期の売上約60億円のうち、およそ7割にあたる40億円以上が実態のない循環取引だった可能性があるとして、2025年4月に証券取引等監視委員会(SESC)の強制調査が入りました。
出典:朝日新聞「急成長のAI企業、売り上げ7割水増しか」
https://www.asahi.com/articles/AST642444T64UTIL041M.html
この発表直後、同社の株価は4分の1にまで下落し、現在も第三者委員会による調査が続けられています。
こうした事態を防ぐには、やはり仕組みそのものを見直していくしかありません。まず考えられるのは、年1回の監査に頼るのではなく、月次や日次単位で数字を点検できるようにする「リアルタイム監査」の導入です。最近ではAIで異常な売上や経費の動きを検知する技術も進んでおり、不正経理処理の感知も現実的になってきました。
また、2024年から完全義務化された「電子帳簿保存法」も有効な対策の一つです。仕訳帳や総勘定元帳などの会計データは、訂正・削除の履歴が残る形で保存することが求められており、帳簿改ざんのハードルは確実に上がっています。
出典:OBC「電子帳簿保存法の改正内容と2024年対応」
https://www.obc.co.jp/360/list/post189
特に有効なのは、内部からの声がきちんと届く体制だと思います。上場企業であればそれなりに社員数は存在するでしょうし、自浄作用も期待できるはず。企業ごとに匿名通報の窓口を設け、独立行政法人みたいな外部の独立した機関がそれを運用すれば、告発者が守られる環境を整えることが可能でしょう。実際、過去の粉飾の多くは社内の勇気ある通報によって明るみに出たものです。
最後に、私たち投資家自身も決算書だけに頼らず、キャッシュフローや業界全体の動きと照らし合わせながら、慎重に企業を見ていく必要があると思います。これに関しては、つい数字だけを追いかけがちな、自分への戒めとして考えたいと思っています。
日本型銀行機能の進化
2025年4月、三井住友フィナンシャルグループ(FG)とフィンテック企業マネーフォワードが、新たな銀行の設立に向けた検討を開始したと発表しました。
両社は50%ずつ出資する準備会社を設立し、具体的な事業内容について協議を進める、とあります。マネーフォワードが提供する会計ソフトなどのSaaSに銀行機能を「統合」し、利用者にとってよりシームレスな金融機能を提供するとしています。
この背景には、金融サービスが従来の「窓口型」から「埋め込み型」へと変化している現状があります。
ユーザーは、日々の業務やアプリケーションの延長線上で、自然に金融サービスを利用できることを求めています。特に中小企業の現場では、資金移動や融資などの手続きが煩雑であるため、SaaSと銀行機能が一体化することにより大幅な業務効率化が期待されるのです。いわば日本型のBaaS(Banking as a Service)ですね。
ところで、こうした動きは、欧米ではAPI(組み込み型プログラム)を通じて銀行機能を提供し、裏方として金融サービスを支えるスタイルが主流になっています。
たとえば、Stripe Treasury(アメリカ)やSolarisbank(ドイツ)などでは、銀行のライセンスを持ち、API(組み込み型プログラム)ベースで口座開設やカード発行、融資、KYC(本人確認)などの機能を提供しています。このAPIを自社のアプリに組み込むことで、スタートアップやEC企業は、迅速かつ低コストで金融機能を自社のサービスに取り込むことが出来るわけです。
一方、日本ではUIやUXを重視し、アプリケーションに銀行機能を直接組み込むアプローチが多いようです。これは、資本金20億円以上や、コンプライアンス整備など、厳格な金融規制があったり、顧客の信頼性を重視する傾向、さらには企業のIT内製力の課題、といった日本特有の事情によるものでしょう。
さらに、こうした自社アプリへの銀行機能追加の、次の段階として注目されるのが、中小企業の資金ニーズとSaaSデータを活用した「信用スコアリング型融資」、いわゆる信用格付け融資です。
会計データ、請求書、給与支払い履歴など、たとえば今回の例ではマネーフォワードが蓄積する実データを活用することで、従来の財務諸表に依存しない、よりリアルタイムな信用評価が可能になります。
そしてこれが実現すれば、中小企業の資金調達がより柔軟かつ迅速になって、事業成長を後押しすることになります。期待したいですね
